6日の広島、9日の長崎、15日の終戦記念日と、日本にとって8月は戦争について考える季節でもある。
決して楽しい作業ではないけれど、1年の中にそういうタイミングを持つことが、とても大切なのだと思う。
近年では、戦後生まれの世代が描いた戦争マンガに傑作が目立つ。
これらの作品に共通するのは、戦争を経験した世代に対する敬意を失うことなく、ドキュメンタリやノンフィクションではなくエンターテインメントとして読者を楽しませるという、とても困難なタスクを同時に成功させている点である。
そこで今回は、過去に僕がインタビューしたことがあるものの中から、今の時期に読むのにぴったりな、太平洋戦争を題材にしたマンガを紹介したい。
『ペリリュー-楽園のゲルニカ-』


【作品概要】
太平洋戦争末期のペリリュー島の戦いを題材にした作品。
昭和19年、夏。ペリリュー島はサンゴ礁の海に囲まれ、美しい森に覆われた楽園であったが、日米合わせて5万人の兵士が殺し合う狂気の戦場へと様変わりしていく。
主人公・田丸はマンガ家志望の青年で、上官から「功績係」を命じられるのであった。
内気で気弱で、しかし観察眼に優れた田丸の目を通じて、ペリリュー島の激闘が描かれる。
楽園と地獄。可愛らしい絵柄と凄惨な出来事。そのコントラストが本作の魅力だ。
【対談】
武田一義×ゆうきまさみ(コミックナタリー)
4巻発売(2018年2月)にあわせて、コミックナタリーの取材で武田一義先生とゆうきまさみ先生の対談を行いました。戦争当事者の証言や資料を取材しても、それをそのまま描くのではなく、「そもそも信頼性がわからないところに立脚してお話が展開していくんだ、というところから始めないと、むしろ誠実じゃないと思った」という武田先生の言葉に、戦争ものに対するスタンスを感じました。
ゆうき先生は本作をとても楽しんでらっしゃるようで、「読者にはこのひどい話を味わってほしい。必読ですよ!」と、本作の魅力を的確に表現していました。
(2018年8月現在、5巻まで刊行)
『あとかたの街』


【作品概要】
名古屋大空襲を題材とした作品。
主人公・あいは国民学校に通う少女。物語は昭和19年から始まり、太平洋戦争末期における衣食住、すなわち「銃後の生活」が、あいの目を通じて語られる。
そして物語は、昭和20年の名古屋大空襲へと向かっていく。
名古屋大空襲という、被害の大きさの割に、あまり語られる機会の少ない空襲が題材となっているのが特徴的。着物、食事といった生活描写に作者のこだわりが強く感じられ、そのディテールが楽しくもあり、破壊される怖さを増幅させている。
また、爆撃照準(エイミング・ポイント)の視覚化に、マンガ表現ならではの試みがなされているところも注目ポイントだ。
【インタビュー】
前編:少女の目を通して描かれる戦時下の”日常”
後編:実際に戦争に遭遇した「その時」をいちばんすごい描写にしたい
3巻発売(2015年3月)にあわせて、「このマンガがすごい!WEB」でインタビューさせてもらいました。1~2巻では戦時中の日常生活に重点が置かれており、3巻から空襲が始まる……といったタイミングでのインタビューです。おざわ先生の「日常感覚の延長として戦争を描きたい」との言葉が印象的でした。おざわ先生の作品には、父親のシベリア抑留体験をもとにした『凍りの掌』もあります。
(2015年11月、全5巻で完結)
『この世界の片隅に』


【作品概要】
昭和18年。広島市江波で育った浦野すずは、軍港・呉の北條家に嫁ぐ。時局の悪化にともなって物資が欠乏していく中、すずは持ち前の明るさで創意工夫をして、日々の暮らしを乗り切っていく。
着物をアレンジしたり、楠公飯をつくったり、戦時中の日常生活が丹念に描かれるなかで、実験的ともいえる数々のマンガ表現が施されている点も見どころ。
2016年には劇場用アニメ映画が公開され、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞をはじめ数多くの映画賞を受賞。2018年12月には新規場面を追加した『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の公開が予定されている。
【インタビュー】
『公式アートブック』では、こうの史代先生にインタビューをしました。また、作品についての解説文を書いており、こちらは呉市散る美術館での原画展での解説文を編集して用いています。


『公式ファンブック』には、こうの史代先生へのインタビュー(新規)、および「漫画アクション」(双葉社)の誌面で行ったこうの先生とのんさんの対談を収録しています。


(2009年4月、全3巻で完結)
戦争について考えるときは、当事者にしかわからないことは多いかもしれないけれど、「非当事者が当事者意識を持つ」ことが何よりも大事ではないだろうか。でなければ、語り継ぐという行為そのものが成り立たなくなってしまう。知らないこと、体験していないことに考えることは難しいことだけど、知識や情報によってイマジネーションを刺激されれば、そこに思いを馳せることができる。
マンガは主人公に対する感情移入装置として高い機能を発揮し、かつ手際や手順を段階的に開示していくことにも向いたメディアである。主人公への感情移入から没入感が得られやすいため、「自分がその場に置かれたら」という疑似・追体験を読者に与えることに適しており、戦争について考える際、マンガは大きな役割を果たしてくれるはずだ。
ただし、1冊ですべてを分かった気になるのは危険で、複数の作品から多角的な“見方”を得ることが大事だろう。
決して楽しい作業ではないけれど、1年の中にそういうタイミングを持つことが、とても大切なのだと思う。
近年では、戦後生まれの世代が描いた戦争マンガに傑作が目立つ。
これらの作品に共通するのは、戦争を経験した世代に対する敬意を失うことなく、ドキュメンタリやノンフィクションではなくエンターテインメントとして読者を楽しませるという、とても困難なタスクを同時に成功させている点である。
そこで今回は、過去に僕がインタビューしたことがあるものの中から、今の時期に読むのにぴったりな、太平洋戦争を題材にしたマンガを紹介したい。
『ペリリュー-楽園のゲルニカ-』
【作品概要】
太平洋戦争末期のペリリュー島の戦いを題材にした作品。
昭和19年、夏。ペリリュー島はサンゴ礁の海に囲まれ、美しい森に覆われた楽園であったが、日米合わせて5万人の兵士が殺し合う狂気の戦場へと様変わりしていく。
主人公・田丸はマンガ家志望の青年で、上官から「功績係」を命じられるのであった。
内気で気弱で、しかし観察眼に優れた田丸の目を通じて、ペリリュー島の激闘が描かれる。
楽園と地獄。可愛らしい絵柄と凄惨な出来事。そのコントラストが本作の魅力だ。
【対談】
武田一義×ゆうきまさみ(コミックナタリー)
4巻発売(2018年2月)にあわせて、コミックナタリーの取材で武田一義先生とゆうきまさみ先生の対談を行いました。戦争当事者の証言や資料を取材しても、それをそのまま描くのではなく、「そもそも信頼性がわからないところに立脚してお話が展開していくんだ、というところから始めないと、むしろ誠実じゃないと思った」という武田先生の言葉に、戦争ものに対するスタンスを感じました。
ゆうき先生は本作をとても楽しんでらっしゃるようで、「読者にはこのひどい話を味わってほしい。必読ですよ!」と、本作の魅力を的確に表現していました。
(2018年8月現在、5巻まで刊行)
『あとかたの街』
【作品概要】
名古屋大空襲を題材とした作品。
主人公・あいは国民学校に通う少女。物語は昭和19年から始まり、太平洋戦争末期における衣食住、すなわち「銃後の生活」が、あいの目を通じて語られる。
そして物語は、昭和20年の名古屋大空襲へと向かっていく。
名古屋大空襲という、被害の大きさの割に、あまり語られる機会の少ない空襲が題材となっているのが特徴的。着物、食事といった生活描写に作者のこだわりが強く感じられ、そのディテールが楽しくもあり、破壊される怖さを増幅させている。
また、爆撃照準(エイミング・ポイント)の視覚化に、マンガ表現ならではの試みがなされているところも注目ポイントだ。
【インタビュー】
前編:少女の目を通して描かれる戦時下の”日常”
後編:実際に戦争に遭遇した「その時」をいちばんすごい描写にしたい
3巻発売(2015年3月)にあわせて、「このマンガがすごい!WEB」でインタビューさせてもらいました。1~2巻では戦時中の日常生活に重点が置かれており、3巻から空襲が始まる……といったタイミングでのインタビューです。おざわ先生の「日常感覚の延長として戦争を描きたい」との言葉が印象的でした。おざわ先生の作品には、父親のシベリア抑留体験をもとにした『凍りの掌』もあります。
(2015年11月、全5巻で完結)
『この世界の片隅に』
【作品概要】
昭和18年。広島市江波で育った浦野すずは、軍港・呉の北條家に嫁ぐ。時局の悪化にともなって物資が欠乏していく中、すずは持ち前の明るさで創意工夫をして、日々の暮らしを乗り切っていく。
着物をアレンジしたり、楠公飯をつくったり、戦時中の日常生活が丹念に描かれるなかで、実験的ともいえる数々のマンガ表現が施されている点も見どころ。
2016年には劇場用アニメ映画が公開され、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞をはじめ数多くの映画賞を受賞。2018年12月には新規場面を追加した『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の公開が予定されている。
【インタビュー】
『公式アートブック』では、こうの史代先生にインタビューをしました。また、作品についての解説文を書いており、こちらは呉市散る美術館での原画展での解説文を編集して用いています。
『公式ファンブック』には、こうの史代先生へのインタビュー(新規)、および「漫画アクション」(双葉社)の誌面で行ったこうの先生とのんさんの対談を収録しています。
(2009年4月、全3巻で完結)
戦争について考えるときは、当事者にしかわからないことは多いかもしれないけれど、「非当事者が当事者意識を持つ」ことが何よりも大事ではないだろうか。でなければ、語り継ぐという行為そのものが成り立たなくなってしまう。知らないこと、体験していないことに考えることは難しいことだけど、知識や情報によってイマジネーションを刺激されれば、そこに思いを馳せることができる。
マンガは主人公に対する感情移入装置として高い機能を発揮し、かつ手際や手順を段階的に開示していくことにも向いたメディアである。主人公への感情移入から没入感が得られやすいため、「自分がその場に置かれたら」という疑似・追体験を読者に与えることに適しており、戦争について考える際、マンガは大きな役割を果たしてくれるはずだ。
ただし、1冊ですべてを分かった気になるのは危険で、複数の作品から多角的な“見方”を得ることが大事だろう。
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