手塚治虫、ジョーカーについて語る
映画『ジョーカー』が大ヒットしている。公開2週目にして興行収入は20億円を突破し、世界だけでなく日本でもちゃんとヒットしたのが喜ばしい限りだ。なにしろ『ダークナイト』が公開された当時は、これだけすごい映画で世界的にも大流行しているのに、なぜ日本だけ客が入らないんだろう(最終興行収入は16.1億円)、と映画ファンはみんな口をそろえていた記憶があるから、今回の『ジョーカー』はお客が入って何よりだ。
(以下のリンクは映画『ジョーカー』の感想)
ジョーカーが原作コミックの『バットマン』シリーズに登場したのは1940年のこと。およそ80年前のキャラクターが世界的にブレイクしていること自体が驚異的なのだが、それだけ古いキャラクターであるから、“マンガの神様”手塚治虫も当然ながらジョーカーをチェック済みだ。
しかも、小野耕世氏(海外コミック翻訳家・研究家)との対談のなかで、ジョーカーから影響を受けたとみずから語っている。
手塚 ぼくはジョーカーが好きでね、初めて見たとき、なんでこれだけ色をぬってないのかなって思ったんです(笑)。この対談の中では、手塚治虫がバットマンとロビンの関係性を「そのころまだホモってことは知らなかったけど、ただならぬあいだだなって気がしたんだ」と推しカプを見つけた腐女子のようなテンションで読み解いていたり、あるいは『ワンダーウーマン』や今年実写映画が公開された『キャプテン・マーヴル』(キャプテン・マーベルのこと)についても言及したりしているので、非常に興味深い内容となっている。
小野 顔が白いから(笑)。
手塚 アミを入れ忘れたのかと思って。アメリカのマンガで、ああいう淫靡なやつっていなかったでしょ。悪党っていえば、太ってて、陽性で、ポパイのブルートーみたいな感じだった。だからああいう、やせて、黄金バットの陰性みたいなやつにはびっくりしたね。で、その影響で、『鉄腕アトム』のなかに、そっくりなやつが出てくる。
小野 出てましたか。
手塚 “コウモリ伯爵の巻”の伯爵ですよ。似てるでしょ、ジョーカーに。
小野 なるほどね。気がつかなかった。
手塚 そりゃそうだよ。そのとき見ていいなって思ったやつが、記憶に残ってるのね。その印象で描くから、そのときはどこからとったかわからないわけ。あとで気がついたりしてね。これは『バットマン』だってね。
小野 かえっていいですね、それが。『手塚治虫対談集 3』手塚治虫漫画全集版より引用
初出は「月刊スーパーマン」1979年2月号掲載
アトムと戦った“ジョーカー”
さて、手塚版ジョーカーともいうべきコウモリ伯爵は、『鉄腕アトム』の「コウモリ伯爵の巻(原題:ミイラ伯爵の巻)」(「少年」昭和33年9月号~34年1月号)に登場する。冒頭では劇中に手塚治虫が登場し、キャンプの子供たちに吸血鬼の怪談を聞かせるシーンから始まる。(怪談のさなか、手戦前から終戦直後のマンガ表現について語るので、マンガ史研究的にも面白い)
その後、少年たちが行方不明になり(コウモリ伯爵に誘拐される)、私立探偵の伴俊作(ヒゲオヤジ)が捜査を開始するのであった。
あくまで原作コミックのジョーカーに造形が似ているとの話なので、『バットマン:キリング・ジョーク』(1988年)以降に確立したモダン・ジョーカー像には似ていないし、当然ながらホアキン・フェニックスにも似ていないが、なるほど、いわれてみれば確かに原作のジョーカーっぽい(気もする)。
いずれにせよ、なんでも取り入れて、自分流にアレンジする手塚の応用力の高さをあらためて感じた次第である。
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