美しい町並みで起きた痛ましいテロ

8月17日午後5時(日本時間18日午前0時)頃、スペイン・バルセロナ中心部の繁華街でワゴン車が人混みに突っ込む事件が発生した。死者は15人、負傷者は100人以上にのぼると見られる(日本時間22日現在)。
その数時間後には同市南郊のカンブリスでもテロと見られる事案が発生し、警察は5人の容疑者を射殺した。スペインのラホイ首相は、記者会見でこの事件を「イスラム教の聖戦主義者(ジハーディスト)によるテロ行為」と述べ、過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」メディア部門のアマク通信は、同組織の「戦闘員」がバルセロナ攻撃の実行犯だったと伝えた。

ワゴン車が暴走した場所はランブラス通りという。
ランブラス通りは、観光地バルセロナのメインストリートで、いわば歩行者天国の新宿通り(アルタ~紀伊国屋~伊勢丹)に車が突っ込むようなもの。本当に痛ましい事件だ。

僕が初めてこの都市を知ったのは、おそらく『スパルタンX』だと思う。ジャッキー・チェン、ユン・ピョウ、サモハン・キン・ポーと、3人のスターがそろい踏みのカンフー・アクション映画だ。この作品の舞台がバルセロナで、いま作品を観返すと、いまとは違った町並みやサグラダ・ファミリアを確認できる。
バルセロナの町並みは美しく、現在公開中の実写映画『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(原作は『ジョジョの奇妙な冒険』第4部)のロケ地にも選ばれ、風光明媚な杜王町を再現した。


8月21日にカンプ・ノウでリーガの開幕戦を迎えたFCバルセロナは、選手名の代わりに「Barcelona」の名が入ったユニフォームと喪章を着用。試合前には犠牲者追悼セレモニーを行った。対戦相手のレアル・ベティスの選手たちも入場時には「EL Real Betis amb Barcelona(ベティスはバルサとともに)」と入ったシャツを着用し、連帯の意思を示した。

カンプ・ノウの最大収容人数は10万人弱だが、テロの影響もあり、この日の入場者数はおよそ六割ほど。厳戒な警備態勢が敷かれたが、こういうときこそ何かを自粛するのではなく、日々の生活を普段通りに遂行することが「テロには屈しない」という明確なメッセージの表明につながる。あらためて犠牲者に哀悼の意を表するとともに、試合を順延しなかった関係者や市民の勇気を讃えたい。

バルセロナが舞台となるマンガ作品

さて、バルセロナは世界的な観光都市なのでマンガの舞台になることが多い。
いまあらためてバルセロナに思いを馳せるために、バルセロナが出てくる作品を見ていきたい。

『キャプテン翼 ROAD TO 2002』
日本を代表する世界的人気のサッカーマンガといえば、もちろん『キャプテン翼』だ。
『キャプテン翼』は改題を繰り返しながら現在まで連載を続けており、いま主人公の大空翼はFCバルセロナに所属している。ホームスタジアムはもちろんバルセロナのカンプ・ノウだ。伴侶となる早苗(あねご)とバルセロナ市内をデートする姿も描かれる。
なお、『キャプテン翼』シリーズの時系列と内容は以下のとおり。
キャプテン翼』(無印)は小学生~中学生編。世界Jr.ユース(U-15)で優勝する。
キャプテン翼 ワールドユース編』では、翼は中学卒業後にブラジルに渡り、サンパウロFCでプロになる。そして全日本ユース(現在のU-20)を率い、ワールドユース選手権(現在のFIFA U-20W杯)で優勝を果たす。
キャプテン翼 ROAD TO 2002』では、翼はサンパウロFCからFCバルセロナ(スペイン)へと移籍。R・マドリッドとの「エル・クラシコ」がハイライトだ。
キャプテン翼 GOLDEN-23』はU-22日本代表での活動がメインとなる。五輪のアジア予選を戦い、最終的に五輪の出場権を獲得する。
キャプテン翼 海外激闘編 EN LA LIGA』は、再びリーガ・エスパニョーラに舞台を移し、FCバルセロナでリーグ優勝を成し遂げる。
そして現在「グランドジャンプ」(集英社)で連載中の『キャプテン翼 ライジングサン』は、マドリッド五輪の本大会が舞台。U-23日本代表はグループリーグを突破し、最新6巻ではU-23ドイツ代表とU-23ブラジル代表の試合が行われている。このどちからと、U-23日本代表は決勝トーナメントで対戦することになるのだ。
なお、スペイン1部リーグには、バルセロナをホームとするクラブがもうひとつある。それがエスパニョールで、かつて日本人の西澤明訓が在籍したこともある。エスパニョールのホームスタジアムは、モンジュイックの丘にあるエスタディ・オリンピック・リュイス・コンパニス。大空翼がモンジュイックでトレーニングするシーンも描かれる。
僕は2004年の10月16日にモンジュイックでバルセロナダービーを観戦したが、そのときにFCバルセロナで1部デビューを果たした17歳の選手がメッシだ。当時の印象は……とくに覚えてないなぁ。ひたすらカメニ(エスパニョールのGK)の身体能力に驚いた記憶しかない。

『YAWARA!』
1992年のバルセロナ五輪を大々的にフィーチャーしたのは浦沢直樹の『YAWARA!』。
全日本体重別選手権決勝でライバルの本阿弥さやかに勝利した猪熊柔は、女子48kg以下級の日本代表としてバルセロナ五輪に出場することに。バルセロナ五輪編は完全版18巻(全20巻)から始まる。
なお、現実の世界では88年のソウル五輪で公開競技として行われ、92年のバルセロナ五輪から正式種目となった。
ちなみにバルセロナ五輪では、男子マラソンで森下広一選手が銀メダルを獲得した。この森下選手に対する過剰なまでの愛情を語っているのが、東村アキコの『海月姫』1~3巻のあとがき「クラゲと私とバルセロナ」だ。森下選手に対するストーキングの黒歴史が語られる。

『キン肉マン』
「完璧超人始祖編」ではバルセロナのサグラダ・ファミリアが戦いの舞台となる。
完璧・無量大数軍(パーフェクトラージナンバーズ)の“完幻”グリムリパーがサグラダ・ファミリア上空に姿を現すと、自分が完璧超人始祖のひとり・サイコマンであることを明かし、サグラダ・ファミリアを破壊。そこにリングを築き、悪魔六騎士のプラネットマンと戦うのであった。
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なお、「完璧超人始祖編」が終了して新しく始まったシリーズでは、ジ・オメガマンの双子の兄「オメガマン・アリステラ」を筆頭とした「オメガ・ケンタウリの六鎗客(ろくそうかく)」が再建中のサグラダ・ファミリアを襲撃。アイドル超人たちが留守のため、ウルフマン、カレクック、ティーパックマン、ベンキマン、カナディアンマンが六鎗客を迎え撃つ。


いずれの作品においても、バルセロナという街は、ポジティブな陽性の町としての印象で描かれている。いまはテロの影響が暗い影を落としているかもしれないが、近い将来、本来の明るさを取り戻してほしいと願わずにはいられない。