アンケート投票の集計方法
今年も「このマンガがすごい! 2018」が刊行された。本誌が発売されると、「今年もそんな時期になったか」と、自分の中では風物詩として定着してきた感がある。
【公式発表!】『このマンガがすごい!2018』 オトコ編第1位は『約束のネバ―ランド』、オンナ編第1位は『マロニエ王国の七人の騎士』#このマンガがすごい https://t.co/9BUdln3KOV pic.twitter.com/bAOvjewXLD
— 「このマンガがすごい!」編集部 (@konomanga_jp) 2017年12月8日
今年は岩本ナオの2連覇(異なる作品での2年連続1位は史上初)という大きなトピックがあったが、とりあえず詳細なランキングに関しては本誌を参照してほしい。
「このマンガがすごい!」はアンケート投票に基づくランキング企画なので、まずはランキングの決定方法について、レギュレーションをおさらいしておきたい。
【アンケート集計方法】例年通り、僕も上記の「各界のマンガ好きが選ぶ」アンケートにオトコ編で参加している。
・2016年10月1日~2017年9月30日に単行本が発売された作品が対象
・アンケート集計は1位=10点、2位=9点、3位=8点、4位=7点、5位=6点、別カテゴリ(オトコ編選者がオンナ編もしくはその逆)への投票は1作品のみで5点扱い(「あの人が選ぶ」「書店員が選ぶ」「雑誌編集部が選ぶ」「大学サークルが選ぶ」「各界のマンガ好きが選ぶ」)
・「漫画家のタマゴが選ぶ」のアンケートは1票=0.5点→0.3点に変更(小数点以下は切り上げ)
なお、アンケート回答者の昨年(2017)との相違点は以下のとおり。
【このマンガがすごい!2017(昨年) アンケートの内訳】
あの人が選ぶ:14名
書店員が選ぶ:22店舗
雑誌編集部が選ぶ:4誌
大学サークルが選ぶ:4校
各界のマンガ好きが選ぶ:47名
漫画家のタマゴが選ぶ:(207票+150票+175票)
【このマンガがすごい!2018(今年) アンケートの内訳】
あの人が選ぶ:14名
書店員が選ぶ:21店舗
雑誌編集部が選ぶ:4誌
各界のマンガ好きが選ぶ:51名
漫画家のタマゴが選ぶ:(148票+227票+1246票)
今年は「大学サークルが選ぶ」がなくなった。そのかわり「各界のマンガ好きが選ぶ」が4名増加しているので、総得点数に大きな変化はない。
それより注目すべきは「漫画家のタマゴが選ぶ」の総投票数がグンと増加している点だ。
前年が532票(=266点)だったのに、今年は1621票(=487点)。
これがどれだけランキングに影響したのか。大きな票田となりうるものなのか。
まずはそのあたりを精査していきたい。
投票傾向について
上記「漫画家のタマゴが選ぶ」の有効投票数の内訳は、左から順に京都造形芸術大学マンガ学科、JAM日本アニメ・マンガ専門学校マンガクリエイト科・マンガイラストマスター科、代々木アニメーション学院の3校。代々木アニメーション学院の票数が飛躍的に増加した。「漫画家のタマゴが選ぶ」は1票=0.3点に変更されたものの、相対的に本コーナーの比重が高くなったといえる。
今年の「漫画家のタマゴが選ぶ」の傾向としては『僕のヒーローアカデミア』(2016年オトコ編5位)や『ヲタクに恋は難しい』(2016年オンナ編1位)が上位に選ばれているように、すでに高い評価を得た作品が好まれるようだ。なお、『約束のネバーランド』は、今回の集計期間内に1巻が発売された新作にもかかわらず、ここでも4位に入り9点(29票)を獲得している。
「漫画家のタマゴが選ぶ」での1位は『僕のヒーローアカデミア』で、23点(75票)を獲得。しかし、ほかでは5点しか加点できず、総得点28点でオトコ編の31位だった。「漫画家のタマゴが選ぶ」の得票だけで上位に進出することは難しいようだ。確かに「漫画家のタマゴが選ぶ」の比重は増したものの、ランキング全体を動かすほどの影響力は持ち得ていないと判断すべきだろう。
それよりも「このマンガがすごい!」は、書店員の票が順位に影響する傾向が強い。
その顕著な例としては、2016年の『ヲタクに恋は難しい』が挙げられる。『ヲタクに恋は難しい』はこの年、合計125点を獲得してオンナ編の1位に輝いたが、そのうち書店票は103点だった。
「あの人が選ぶ」や「各界のマンガ好きが選ぶ」はそれぞれの回答者が自由に選ぶのに対し、書店員の場合は、職業的な見地からの思惑が一致しやすいのだろう。その結果、示し合わせたわけではないのに、特定の作品に票が偏りがちだ。
「あの人が選ぶ」や「各界のマンガ好きが選ぶ」だけでは、時にピーキーになりすぎ、ランキング自体が「マニアのおもちゃ」に堕する危険性をはらむ。それを避けるために、書店票という“世相”で全体のバランスを取ろうとする意図は、よくわかる。
今年も書店員の支持を集めた作品が、オトコ編・オンナ編で1位になった。
2016年のオンナ編ほどではないにせよ、やはり書店票は無視できない存在のようだ。
そのこと自体は、決して悪いことではないと思う。
もし書店票の意向が勝りがちな印象を受けるようであれば、21~22店舗という数そのものよりも、全体に占める比率を調整するのが望ましいのではないだろうか。
書店票をほとんど得られなかった『ポーの一族 ~春の夢~』がオンナ編2位に食い込んでいるあたり、アンケート回答者に根強いファンが多いことがうかがえる。
一方で『魔王の秘書』(書店票29点/合計37点、オトコ編18位)や『執事たちの沈黙』(書店票28点/合計28点、オンナ編21位)は、「書店票が集まった作品」といえるだろう。このあたりに、書店が推したい本音が垣間見える気がする。
「このマンガがすごい!」らしい特色
さて、「このマンガがすごい!」本誌は、毎年刊行される年度版である。そのためアンケート投票者は、
・期間内に1巻が出た新作
・期間内に完結した作品
のいずれかを重視しやすい傾向にある。
前者(新作)に関しては、「青田買い」的な側面はもちろんあるが、「(単行本が)売れないと続きが出せない(≒打ち切られてしまう)」ので、どうにか多くの人に注目してもらって「作者と読者が納得する形で最後まで完走してもらいたい」という願いが込められた投票心理も働いている。
後者(完結作品)は、回答者がその作品に投票できる最後のタイミングであり、「この名作が世にあまり知られることなく埋もれてしまうのは惜しい」という、使命感のような心理が作用している。
投票方式のレギュレーションと年度版という性質によって、アンケート回答者には上記のような内的動機が介在するのが『このマンガがすごい!』本誌のアンケート回答者の投票傾向だ。
近年はマンガの賞やランキング企画が増加してきているなかで、「2018」は「このマンガがすごい!」らしい特色が出たアンケート結果といえるのではないだろうか。前者(新作)に関しては、「青田買い」的な側面はもちろんあるが、「(単行本が)売れないと続きが出せない(≒打ち切られてしまう)」ので、どうにか多くの人に注目してもらって「作者と読者が納得する形で最後まで完走してもらいたい」という願いが込められた投票心理も働いている。
後者(完結作品)は、回答者がその作品に投票できる最後のタイミングであり、「この名作が世にあまり知られることなく埋もれてしまうのは惜しい」という、使命感のような心理が作用している。
投票方式のレギュレーションと年度版という性質によって、アンケート回答者には上記のような内的動機が介在するのが『このマンガがすごい!』本誌のアンケート回答者の投票傾向だ。
端的に言えば「応援馬券」である。
さて、以上のことを踏まえて今年のランキングを見ると、オトコ編とオンナ編ともに、ベスト10のうち8作品が新作(集計期間内に1巻が刊行された)であることに気づく。
オンナ編に関しては、新作8本+完結作品2本である。
さて、以上のことを踏まえて今年のランキングを見ると、オトコ編とオンナ編ともに、ベスト10のうち8作品が新作(集計期間内に1巻が刊行された)であることに気づく。
オンナ編に関しては、新作8本+完結作品2本である。
個人的には、連載マンガを維持しうる媒体を持っていない版元や組織によるマンガ賞およびランキング企画は、もっと増えてほしいと思っている。それこそ映画にはアカデミー賞もあればサンダンス映画祭のようなものもあって、それぞれの賞に特色があるように、マンガの世界でもさまざまな賞ができて、業界を盛り上げていってほしい。
そのためにもまずは、年末は「このマンガがすごい!」、年度末は「マンガ大賞」の住み分けが浸透し、どちらも盛り上がっていけばいいと思っている。
「このマンガがすごい!」は権威ある賞ではなく、あくまでランキング企画。「今週のアレ、読んだ?」の延長にあるようなものだと、僕は考えている。
ランクインした作品/しなかった作品について、マンガ好き同士であれやこれやと話していきたいし、ランキングに不満がある方は、SNSなどで「俺のベスト10」とかをドンドン発信していってほしい。
誰がどんな本を読んでいるか、やっぱり気になるものだしね。
最後に。
オトコ編へのアンケート投票以外にも、今年もオトコ編1位の作家インタビューや、いくつかのランクイン作品のレビューを担当しています。
こちらもあわせてお読みいただければ幸いです。
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