コロンビア、負の側面

ロシアW杯出場国をマンガで紹介するシリーズの第1弾。
まずは日本の初戦の相手(6月19日)、コロンビアを紹介したい。
コロンビアは南米予選を4位で通過して本大会への出場を決めた(2大会連続6回目)。
日本とは前回ブラジル大会でも同じグループリーグに所属し、そのとき日本は1-4で大敗を喫している。前回大会では、ハメス・ロドリゲスが得点王に輝く活躍を見せ、ベスト8と好成績を残した。
今大会でも上位進出が予想される。

さて、コロンビアを舞台とした作品となると、
近年は麻薬王パブロ・エスコバルを題材とした作品が目立つ。
映画『エスコバル/楽園の掟


ドラマ『NARCOSナルコス 大統領を目指した麻薬王


サッカーとの関連性でいえば、94年のアメリカ大会でオウンゴールをしたアンドレス・エスコバル選手が思い出される。エスコバルは帰国後に射殺されたが、賭博シンジケートの事件への関与がささやかれた。
麻薬、ギャング、高い殺人発生率と、コロンビアは負の側面ばかりがクローズアップされがちな傾向にあるのは事実だ。

コロンビアの英雄

コロンビアのポジティブな面に目を向けるならば、ルイス・ヘレラの存在を挙げたい。
ルイス・ヘレラは、ツール・ド・フランスなどで活躍した自転車ロードレースの選手である。
山岳ステージで圧倒的な強さを発揮した「山岳王」で、山岳ポイントトップが着用を許される「マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ(白地に赤の水玉)」がよく似合う選手だった。

(※『シャカリキ!』作中で、主人公テルも山岳ジャージに袖を通す)

幼少時のルイスは、家業を手伝うために、家から40km離れた首都ボゴタ(標高2640m)まで自転車で毎日往復して花を届けていた。そこから「エル・ハルディネリート」(小さな植木屋さん)の愛称がつけられたわけだが、この日課が自然と高地トレーニングとなり、彼はのちに世界の「山岳王」へと成長していく。

このルイス・ヘレラをモデルとしたキャラクターが登場するのが、曽田正人『シャカリキ!』だ。
『シャカリキ!』は自転車のロードレースを題材にしたスポーツマンガで、曽田正人にとって初めての連載作品であった(「週刊少年チャンピオン」掲載)。
主人公・野々村輝は坂路で異常な負けん気を発揮する“坂バカ”。クライマー(登坂のスペシャリスト)として成長していく。そんな主人公のライバルとして登場するのが、コロンビア出身の留学生ハリス・リボルバーだ。ハリスは“コンドル”の異名をとるクライマーで、ツール・ド・おきなわではテルと激闘を繰り広げることになる。
そしてハリスの強さの由来として、前述のルイス・ヘレラのエピソード(花の配達)が使われているのだ。

『シャカリキ!』の時代

『シャカリキ!』が「週刊少年チャンピオン」で連載を開始したのは1992年。
いまでこそロードレーサーは広く普及し、都内でも公道でよく見かけるようになった(それが問題視されてもいる)ものの、本作の連載当時はロードレースは日本国内においてはかなり知名度の低い競技であった。この年、「ツール・ド・フランス」の中継放送がNHKからフジテレビに移る。ロードレース(およびロードレーサー)の国内での一般認知度が高まる最初期に、この作品は描かれたことになる。


(※NHK放映時代の映像はDVD化している)

そのため、「マンガを通じて未知のスポーツに触れる」ことを意識しており、競技のハウツー的な描写も多い。ちょうど『スラムダンク』(1990年連載開始)がバスケ……というよりもNBAに代表される現代プロバスケの導入口となったように。

思い返せば、80年代後半から90年代半ばにかけては、好景気の影響もあってか、日本中が新しい娯楽コンテンツを欲求していた時期であった。バスケのドリームチームが話題になったバルセロナ五輪は92年。立ち技格闘技のK1がスタートしたのも92~93年の頃だ。
こうした需要を当て込んで、フジテレビはF1、ツール・ド・フランス、FIS W杯スキー、セリエAと、次々と“新しい”スポーツコンテンツに手を伸ばしていった。
ちなみに、2016年の映画『疑惑のチャンピオン』で題材となったランス・アームストロングは93年にツール・ド・フランスに初出場し、ステージ優勝を飾っている。アメリカ人選手が珍しくて、翌日に友人と語ったのを覚えている。



僕が曽田正人という作家を認識したのは、「週刊少年チャンピオン増刊」91年9月増刊号に掲載された読切作『ピンチヒッターMissロスラフスキ』(少年チャンピオン・コミックス版の最終18巻に収録)だ。

夏休みにお盆進行でレギュラーの雑誌が休みだったので、この増刊号を購入したように覚えている。たしか同じ号に、きくち正太『数寄屋橋天使の詩』という佳作も掲載されていたはずだ。
この『ピンチヒッターMissロスラフスキ』を読んだときに、それまでの野球マンガとは違う(当時の)現代的なセンスを感じて、とてもフレッシュな印象を受けた。
そんな新進気鋭の作家が“新しい”スポーツを題材に描く、というみずみずしさが、いま読み返してもまったく失われていない。『シャカリキ!』は、あの90年代の新取の空気感をいまに伝えてくれる作品でもあるのだ。

また、曽田正人は『め組の大吾』や『』などで“異質な天才”を描いてきたが、その原型を野々村輝に見出すことができるだろう。曽田正人の作家的ルーツを知るうえでも、マストな作品といえる。