日本が本大会で初勝利を挙げた相手

ロシアは今回のW杯の開催国である。
開催国であるため予選は免除され、2大会連続11回目の出場となった。

日本代表との思い出と言えば、忘れられないのは2002年日韓W杯での対戦だ。
日本代表はグループステージ(H組)2戦目、横浜国際競技場でロシア代表と対戦し、稲本潤一のゴールで勝利を飾った。そして、これが日本代表にとって、W杯本大会での初勝利となった。


なお、この稲本のゴールからストーリーが始まるのが、福本伸行『最強伝説 黒沢』だ。
穴平建設の作業員・黒沢は、同僚たちとビールを片手にW杯に熱狂。稲本の名前を「稲垣」と間違えて連呼する失態をおかしながらも人一倍盛り上がっていたのだが、その時、黒沢は「唐突に……分かってしまった…!」のである。
感動などないっ…!」ということに。
以来、黒沢は「オレのオレによる、オレだけの」感動を求め、「人望が欲しい」という願いを叶えるため、様々な苦闘を繰り広げていく。



歴史、文学、戦争

ロシア(もしくはソビエト連邦)を題材とする作品は、かつては歴史マンガに多く見受けられた。その代表例は、池田利代子の『オルフェウスの窓』や『女帝エカテリーナ』だろう。
文豪ドストエフスキーの『罪と罰』はいろいろな作家がコミカライズに挑戦しているが、やはり手塚治虫の『罪と罰』はおさえておきたい。

ありがとう、うちを見つけてくれて 「この世界の片隅に」公式ファンブック』で、こうの史代先生にインタビューした際、『この世界の片隅に』の「波のうさぎ」と「第1回 18年12月」の冒頭3ページが同じコマ割り・構図であるアイデアについてお聞きしたところ、こうの先生は手塚版『罪と罰』でラスコルニコフが老婆に金を借りにいくシーンを引き合いに出して説明してくれた(該当インタビューはこちらに収録)。
このようなマンガ表現における実験的な試みがあるのはもちろんのこと、『罪と罰』のストーリーの概略を把握するにも適している。

凍りの掌』(おざわゆき)は、作者の父親のシベリア抑留体験に基づいた作品。
強制労働や視界いっぱいに広がる荒涼たる凍土など、抑留生活の絶望が描かれる。

映画『動くな、死ね、蘇れ!』は、ソ連から亡命したヴィターリー・カネフスキー監督のモノクロ映画で、炭鉱の町スーチャン(パルチザンスク/ウラジオストクから東へ約170キロ)が舞台だ。ここは「収容所の町」であり、作中、日本人捕虜が「炭坑節」を口ずさむシーンがある。
寒空に響く「炭坑節」の、なんと寒々しいことか!
『凍りの掌』は、この寒々しさが全編に渡って描かれている。
なお、kindle版はエピソード単位で販売されており、すべてそろえても単行本1冊より安価なので購入しやすい。

ロシア絡みとなると、歴史、文学、戦争と、どうも“お固い”題材が選ばれがちなようだ。

コメディに見るロシアのパブリックイメージ

ギャグマンガの金字塔『こちら葛飾区亀有公園前派出所』も、ベレンコ中尉亡命事件(1976年)をモチーフにした「真夜中のパイロット!の巻」(単行本20巻収録、初版1982年)では、『こち亀』にしてはシリアスなエピソードだった。

北方領土問題に絡めた政治サスペンス『憂国のラスプーチン』もシリアスな作品だ。


コメディに出てくるロシアとなると、近年はプーチン大統領をパロディ的にキャラ化した作品が目立つようになってきた。『ムダヅモ無き改革』(大和田秀樹)や『ゴロセウム』である。
プーチンのメディア上での扱われ方は“キャラ立ち”しているので、パロディの題材にしやすいというのが理由だろう(決してプーチン氏自体が支持されているわけではない、と思う)。

『ゴロセウム 』は、「平和回路(ピースメーカー)」によって新しい秩序がもたらされた世界が舞台となる。時代設定は、現代に近い並行世界と考えていい。
「平和回路」はロシアが極秘裏に開発したもので、弾丸、ナイフ、ミサイル、核、毒ガス、生物兵器など、およそ“平和的”でないものすべてを無効化するテクノロジー。「平和回路」装備者には「体でのコンタクトによる直接打撃」か「地面への投げ技」でしか、ダメージを与えることができないため、優れた肉体を持つ格闘家が最強の兵器となった。
ミノフスキー粒子によってレーダー機能が阻害され、モビルスーツによる白兵戦が主流になった「ガンダム」の世界を例に出せば分かりやすいだろうか?

大ロシア連邦の終身大統領ウラジスラフ・プーチノフは、進化型人造人間(チェルノボーグ)を尖兵として、世界侵略を企む。このプーチノフが、6巻表紙を見てもらえば分かるとおり、プーチン大統領をモデルにしたキャラクターである。
プーチン以外にも、本作に登場するキャラクターの大半は、現実に存在する人物をモデルにしており、とりわけ格闘家やプロレスラーが多い。大ロシア連邦の兵たちのモデルになっているのは、アンドレイ・コピィロフやヴォルク・ハン、アレクサンドル・カレリンなどなど。リングスのファンだった人は大喜びだろう。

本作の主人公サーシャ・グンダレンコは、ラスプーチンによって函館に導かれた“白き魔女”と称される格闘家。土方歳三の子孫とともに行動し、彼女らは自分たちの流派を天然理心流気合柔術」と称している。しかし、「天然理心流」の名を冠していながら、使用するのはバッククラッカーやデスバレーボム、ゴッチ式パイルドライバーといったプロレス技だ。「天然理心流」と叫びながら、鈴木みのるばりに相手をクラッチするあたりに「おいおいおい」とツッコみたくなるところが、本作の楽しみポイントといえる。
つまり本作は「美少女プロレスラーが主役のストリート異種格闘技マンガ」と理解すればいい。
設定は凝っているけど、気楽な気持ちで読める、楽しい作品である。

このようなストーリーであるため、本作にはロシア人格闘家が数多く登場する。
とはいえ、冷徹で冷酷、無慈悲であまり表情が変わらない軍人/格闘家といったキャラクターが多い印象を受ける。その類型の祖は『ロッキー4/炎の友情』のドラゴ(ドルフ・ラングレン)や、『レッドブル』のイワン・ダンコー大尉(アーノルド・シュワルツェネッガー)だろうか。
先述したとおり、本作に登場するキャラは、現実に存在する人物をモデルとするパロディ・キャラクターだ。パロディ・キャラクターは、元となる人物のキャラクター性と、受け手(=読者)の想起するイメージに依拠することになる。つまり、世間一般の「ロシア軍人/格闘家」のイメージが固定化していればこそ、パロディ・キャラクターは似通ってしまうわけだ。

ロシアは民主化以降もあまり日本との交流が盛んではない。
あいかわらず「近くて遠い国」だが、それがはからずもパロディ要素の強いマンガからも、感じとれてしまうのであった。