日本のライバル・サウジアラビア

サウジアラビア代表は、アジア最終予選では日本と同じグループBに振り分けられていた。
日本代表は、アジア最終予選の第5戦目にさいたまスタジアム2002でサウジアラビア代表と対戦し、2-1で勝利。グループ首位だったサウジアラビアに勝ち点で並んだ。
最終戦で再びサウジアラビアと対戦したが、このときは日本がすでにグループ1位を決めた後で、日本代表はジェッダで0-1で敗北。サウジアラビア代表はこの勝利で、3大会ぶり5回目のW杯出場を決めた。

さて、サウジアラビア代表について思い出すことといえば、1993年のアメリカW杯アジア最終予選、いわゆる“ドーハの悲劇”である。

日本代表は最終節でイラク代表と2-2で引き分け、グループ1位から3位に転落。その裏でサウジアラビア代表はイラン代表に4-3で勝利し、グループ1位になってアメリカW杯への切符を手にした。

アメリカでの本大会では、エースのサイード・オワイランが大活躍。
グループリーグのベルギー戦では60メートル独走の5人抜きでゴールを決め、「砂漠のマラドーナ」の異名をとった。オワイランを中心としたサウジアラビア代表は、アジア勢としては7大会ぶりとなるベスト16入りと、大躍進を果たしたのである。

また、1996年の日本代表がアトランタ五輪出場を決めたときの相手(準決勝)もサウジアラビア代表であったし、1992年(広島)と2000年(ベイルート)のアジア杯で日本代表が優勝したときの決勝の相手もサウジアラビア代表だった。
近年では、W杯最終予選で韓国と同じグループリーグに入ることが少なく、また日韓定期戦も行われなくなっているため、サウジアラビア代表こそ日本代表のライバル的な存在と呼ぶにふさわしいだろう。

サウジアラビアに対するイメージ

サウジアラビアは極めて特殊な国だ。
マッカ(メッカ)とマディーナ(メディナ)という、イスラム教における二大聖地が国内に存在し、王族のサウード家が「二聖モスクの守護者」として祭祀的国家を営んでいる。

イスラム教の戒律がとても厳しく、とりわけ女性はさまざまな活動が制限されている。
かつては女性が公の場で自転車や自動車に乗ることも禁じられていたという。

少女は自転車にのって』は“映画館のない国”サウジアラビアで初めてつくられた長編映画とされている。10歳の少女ワジダは、おさななじみの男の子と自転車レースがしたくて、自転車をどうしても手に入れたい。周囲の大人たちは反対するが、ワジダは自転車の代金を稼ぐために、優勝賞金をねらってクルアーン(コーラン)暗唱コンクールに出場することになる。
戒律をあまり重んじない少女が、自分の自由を押し通すために、戒律(クルアーン)を学ぶ……という物語構造が、なかなかツイストがきいていて面白い。
一夫多妻制など、サウジ社会における女性の諸相を描写しているが、基本的には『ドリームズ・カム・トゥルー』(アメリカのスペリング・ビーを題材にした映画)のような爽快さもある作品だ。


“映画館のない国”と前述したが、サウジアラビアは極端な宗教的保守主義が取られていたため、男女が公的な場で娯楽をともにすることが御法度で、1980年代から映画館の営業が禁止されていた。しかし、石油資源に依存しない経済・社会を目指すムハンマド・サルマーン皇太子の改革により、2017年には女性の運転(自転車や自動車)が解禁され、今年2018年の4月18日には35年ぶりに映画館が復活した。
その記念すべき“解禁”第1作目は『ブラックパンサー』だったという。


そしてサウジアラビアのもうひとつの特徴は、世界2位の原油埋蔵量だ。
キン肉マン』に出てくる超人オイルマン(超人強度は33万パワー)はサウジアラビア出身である。超人オリンピック・ザ・ビッグファイトの最終予選まで勝ち残っていたが、ローラースケート競技で走路にオイルをぶちまけ、日本代表(キン肉マンとウルフマン)の本選出場をアシストしてしまう。


ともあれ。
戒律が厳しく、王族がいて、裕福な産油国
それがサウジアラビアに対する一般的なイメージだろう。

『キャプテン翼』で描かれるサウジアラビア代表

サウジアラビア代表は、もちろん『キャプテン翼』シリーズにも出てくる。
『キャプテン翼 ワールドユース編』(現在のU-20W杯が舞台)に登場したサウジアラビアユース代表のキャプテンはマーク・オワイラン。鉄壁の守備を誇るサウジアラビアユースのディフェンス陣を統率するリベロで、王族オワイラン家の血を引く王子である。そしてあだ名は「砂漠の王子」なのだから、前述の「砂漠のマラドーナ」サイード・オワイランがモデルであることは、火を見るよりも明らかだ。


※ターバンを巻いている選手がマーク・オワイラン。

なお、マーク・オワイランは『キャプテン翼 DOLDEN-23』(五輪のアジア予選が舞台)にも引き続きサウジアラビア代表のキャプテンとして登場する。日本に敗北して五輪出場は果たせなかったものの、最終戦でサウジアラビア代表がオーストラリア代表と引き分けたため、日本代表の五輪出場を後押しする形となる。なんとサウジアラビアは、『キン肉マン』でも『キャプテン翼』でも、日本代表の五輪出場を後押ししているのだッ!(こじつけ)

ちなみに「サウジアラビア」という名称は「サウード家のアラビア」を意味するので、王子が「オワイラン」だと結構ハードな不都合があるはずだが、そこはまぁ、ご愛敬ということで。
もしかしたら『キャプテン翼』ワールドでは、オワイラン家がブッシュ政権と結びついていて、マイケル・ムーアの『華氏911』で批判されているかもしれない。

『サトコとナダ』が示す4コマのグローバルスタンダード

サウジアラビアをモチーフにした作品で、最近とくに注目を集めているのが『サトコとナダ』だ。

アメリカに留学した日本人のサトコは、現地でルームシェアをすることになる。ルームメイトを募集している家に行ってみると、同居人はサウジアラビア出身のイスラム教徒(ムスリム)の女子・ナダであった。日本人とサウジアラビア人。文化や宗教、生活習慣のまったく異なるふたりの、異国のアメリカでの共同生活をコミカルに描く。
作品のテイストからエッセイコミックと思いがちだが、あくまで作者本人の体験に基づくフィクションである。星海社の運営するツイッター連動型マンガ配信サイト「ツイ4(よん)」で連載中の4コママンガで、「このマンガがすごい!2018」(宝島社)ではオンナ編第3位にランクインした。
最新話はこちらで閲覧可能だ。

この作品の設定で面白いところは、サトコとナダが、アメリカではともに異邦人であるところにある。異文化を扱う作品では、文化の衝突が起こりやすいものだが、互いに異邦人であることから、日本文化もサウジアラビア文化も相対化されている。それによって、衝突ではなく、多様性に対する寛容なムードを生み出しており、作品全体に通底する“優しい”まなざしの源になっている。

前述のサウジアラビアに関する内容に関しては、映画については「映画館」(1巻 P.47)、自転車に関しては「自転車」(2巻 P.42)で扱われている。いずれも2018年現在の状況とは異なるようだが、それだけいまのサウジアラビア社会が大きく変容しつつあることがうかがえる。
サウジアラビアが「戒律が厳しく、王族がいて、裕福な産油国」なのは確かだけど、フィクションを通じて、その変容しつつある“いま”が垣間見れるところがうれしい。


なお、この作品で僕がいちばん感心したのはコマの使い方だ。
通常の4コママンガにおけるコマの縦横比は4:3程度だが、本作はおよそ2.5:1。通常の4コマが「昔のテレビ」、本作は「シネラマ」のようなものだ。そのため通常の4コママンガは短冊形だが、本作は1ページマンガのような印象を受ける。
横幅一杯を使うのは、ツイッター連動型のweb連載という性質を踏まえたものだろう。現状、ほとんどのwebサービスは、すでに7割以上がスマートホンからのアクセスになっている。スマホ閲覧に最適化したフォーマットなのである。

そして横幅一杯にスペースを使うことで、フキダシをすべて横位置で統一できている。
ほとんどのwebサービスは横書きで左から読むのに対し、書籍やマンガは右から読む。スマホ閲覧に最適化するには、文字を左から読める方がスムーズであるのは確かだ。
かといって、既存のマンガ文脈を無視しているわけではない。
フキダシ内のネームを読む順番は、あくまでコマ右側からとなっている。そこで混乱が起きないように、同一コマ内に複数のフキダシが入る場合は、コマの縦(上下)の位置関係で時間的推移(どちらが先に発せられたセリフか)がわかるようになっている。このようにコマの位置をコントロールすることによって、「コマ内のネームは右が先(時間的に早い)/文字は左から読む横書き」の本作におけるルールが、無理なく読者に伝わるようになっているのだ。

また、マンガの“文法”的なことを言えば、「横書きは外国語」を示すケースが多い。サトコとナダがともに異邦人として英語でコミュニケーションを取っていることを考えれば、その雰囲気作りにも役立っている。さらに付け加えるならば、横書きのフキダシはローカライズしやすい。海外に“輸出”するのも、比較的容易な作りといえるだろう。

これらの理由から、『サトコとナダ』のコマとネーム配置は、あたらしい4コママンガのグローバルスタンダードになるかもしれない可能性を秘めている。
作品のテーマが持つグローバル性が、実は作画のテクニカルな面でも行われていると見れば、なかなか野心的な作品じゃないかと思うわけだ。